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個人事業主が従業員を雇う際に知っておきたい保険と手続きの話

2024.08.23
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個人事業主が業務の効率化や拡大にあわせて従業員を雇う場合、必ず知っておかなければならないのが、労災保険や雇用保険、厚生年金といった保険の話です。

保険は雇う人数によって加入が義務づけられているものがあり、怠ると未払い分の保険料の徴収や延滞金の支払いといったペナルティが発生します。

このコラムでは、これから初めて従業員を雇う個人事業主の方に向けて、加入義務のある保険やその条件、また、加入することによるメリットなどを解説していきます。

目次

    個人事業主でも従業員を雇ったら保険に入る義務がある

    前提として、法人ではない個人事業主でも従業員を雇うことは問題ありません。正社員はもちろん、契約社員やアルバイト、パートも雇用が可能です。また、業務委託というかたちで外部のフリーランスや企業と契約を結ぶこともできます。

    従業員を雇った場合、各種保険に従業員を加入させる義務が事業主に発生します。従業員とは、雇用契約を結ぶ人物のことを指します。そのため、業務委託契約の場合は、たとえ相手が法人ではなく個人であっても従業員には含まれません。業務委託契約は、仕事ごと・案件ごとに契約を結ぶ点が、雇用契約とは大きく異なります。

    従業員1人雇うと加入義務「労働保険(労災保険・雇用保険)」

    従業員を1人雇った時点で加入義務が発生するのが労働保険です。労働保険とは、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険の総称です。

    労災保険は、従業員を1人雇った時点で加入義務が、雇用保険は1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ、31日以上引き続いて雇用される見込みのある従業員は加入の手続きが必要になります。労災保険には労働時間や雇用期間の見込みについての条件はなく、短時間の労働であっても加入義務があります。

    ここでの従業員とは、正社員に限りません。契約社員やアルバイト、パートであっても労災保険には全員が、雇用保険には条件を満たした従業員全員に加入義務があります。

    労災保険の事業主負担と手続き方法は?

    労働保険のうち、労災保険は全額事業主負担です。労災保険料は、全従業員分の年度分給与の合計と、業種によって定められている割合(労働保険料率)を掛けて計算されます。労働保険料率は、0.25%~8.8%までさまざまで、たとえば「金融業、保険業又は不動産業」の場合は0.25%となっています。

    たとえば、従業員が10名、平均給与が400万円の不動産事業所の労災保険料は以下のように計算されます。
    400万円×10× 0.3%=100,000円

    この金額が、事業所全体の1年分の労災保険料となります。

    労災保険の管轄は労働基準監督署で、従業員を雇用して10日以内に労働保険関係成立届、雇用して50日以内に労働保険概算保険料申告書という書類の提出が必要になります。

    雇用保険の事業主負担と手続き方法は?

    雇用保険料は、事業主と従業員の双方で負担します。雇用保険の場合も労災保険のように業種ごとに保険料率が定められていますが、労災保険ほど細分化されておらず「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3区分です。

    2023年度時点では一般の事業の場合、労働者が負担する雇用保険料率は0.6%、事業主が負担する雇用保険料率は0.95%となっています。

    事業主と労働者の雇用保険料率に差があるのは、雇用保険のうち、失業の予防、雇用機会の増大、労働者の能力開発といった雇用対策として使われる「雇用保険二事業」と呼ばれる区分については、事業主の全額負担となっているからです。

    従業員Aさんの月額給与が30万円の場合、Aさんと事業主が負担する月額雇用保険料はそれぞれ以下のようになります。

    Aさん…30万円×0.6%=1,800円
    事業主…30万円×0.95%=2,850円

    雇用保険の管轄はハローワークで、従業員を雇用して10日以内に雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届、労働保険の保険関係設立届の控え、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)、労働者名簿の提出が必要です。

    労災保険と雇用保険の手続きを同時に行う場合には、先に労働基準監督署で労災保険の手続きから行うことになっています。

    従業員5人以上雇うと加入義務「健康保険・厚生年金保険」

    健康保険と厚生年金保険を合わせて社会保険といいます。個人事業主が従業員を雇う場合、従業員が5人以上になると健康保険・厚生年金保険ともに加入義務が発生します。

    また、健康保険料・厚生年金保険料ともに従業員と事業主で半分ずつ負担します。

    健康保険の内容と加入対象となる従業員

    医療機関で治療を受けた際の自己負担金額は3割ですが、これは健康保険料を支払っているから負担が抑えられていることになります。

    健康保険は従業員5人以上を雇うと加入義務が発生しますが、ここでの従業員には、正社員に加え、週の所定労働時間及び月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の3/4以上の従業員が該当します。正社員がいない場合は、正社員がいた場合の所定労働時間と所定労働日数を想定して計算します。

    厚生年金保険の内容と加入対象となる従業員

    厚生年金保険は、65歳から国民年金に加えて支給される年金です。加入対象となる従業員は、健康保険と同様です。

    健康保険と厚生年金保険の事業主負担と手続き方法は?

    健康保険料は毎年4月から6月までの3か月間の平均報酬から決定される「標準報酬月額」に、都道府県ごとに定められた「健康保険料率」を掛けて算出されます。群馬県の場合、介護保険料負担が加わる、40歳から64歳までの方の健康保険料率は11.58%、それ以外の方は9.76%です。算出された金額の半額が事業主負担です。

    厚生年金も「標準報酬月額」に「厚生年金保険料率」を掛けて算出する点は同様ですが、厚生年金保険料率は全国一律で18.3%と定められています。

    たとえば、40歳の従業員Aさんの標準報酬月額が30万円の場合、従業員と事業主の月々の負担は以下のようになります。

    健康保険

    30万円×11.58%=34,740円 これを折半するのでそれぞれ17,370円ずつ負担。

    厚生年金保険

    30万円×18.3%=54,900円 これを折半するので、それぞれ27,450円ずつ負担。

    健康保険と厚生年金保険の管轄は年金事務所です。従業員が5人以上になった日から5日以内に新規適用届、被保険者資格取得届などを提出する必要があります。

    まとめ

    個人事業主が従業員を雇う場合、その人数によって加入義務が発生する保険があります。加入を怠るとペナルティが発生しますので、手続きにお悩みの際は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。

    また、労働保険・社会保険ともに個人事業主本人は加入ができません。しかし、労災保険については特別加入制度というものが設けられています。こちらについてもお問い合わせいただければ丁寧にご案内させていただきます。

    執筆者:
    石原 慎二